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悲歎のケア
柏木 哲夫
淀川キリスト教病院
名誉ホスピス長
相談役
ホスピス緩和ケアの対象は患者と家族である。末期がんで死が避けられないと分かった時、家族の予期悲嘆が始まる。患者がやがて死を迎えるとわかり、患者の死を予期して家族が悲しむのを予期悲嘆と言う。予期悲嘆は患者の死と共に終わる。予期していたことが現実になったからである。
患者の死後、家族は死別後の悲嘆を経験する。予期悲嘆、死別後の悲嘆、両方にケアが必要である。ここでは、死別後の悲嘆について述べる。わが国における死別後の悲嘆のケアは十分ではない。アメリカでは、正式にホスピスと認められる為には、そのホスピスが正式に悲歎のケアのプログラムを持っていることが要求される。日本のホスピス緩和ケア病棟で正式に悲嘆ケアのプログラムを持っているところはごく少数である。
淀川キリスト教病院のホスピスでは毎年「ホスピス遺族会」を開いている(コロナ渦で中断。再開計画中)。一年間に亡くなられた患者さんの御家族に集まっていただき、ホスピス入院中に撮った患者さんのスライドを見ていただく。茶菓を準備し、遺族同士の交わり、遺族とスタッフの交りが悲嘆のケアに繋がる。月一度の「すずらん会」は悲嘆が強い少人数の「分かち合いの会」である。悲嘆ケアの専門家がグループをリードし、参加者は自分の悲嘆を分かち合う。
コロナ渦において、遺族の悲歎のサポートがもっと真剣に取り組まれる必要があると考える。面会が許されず、看取りの場に居ることが許されず、患者の死後、ケアの手が差し伸べられていないのが残念でならない。患者が入院中の家族のケアはもちろんのこと、死別後の家族のケアが大切である。患者の死への経過が早く、心の準備ができない中で死を経験する家族であるが故に、死別後のケアは真剣に取り組むべき重要な課題であると思う。
グリーフケアはホスピスケアの重要な一部であるが、その守備範囲は広く、今後の「ケア学」の中で重要な位置を占めると考えられる。ホスピスケアの中で学んだことをコロナ死の遺族のケアに生かす努力をする必要があると思っている。